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1章2節その7

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110724/校正ミスと矛盾のあるところの修正

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「この子が新しいひとなの」と、ヘッドフォンをかけた女のひとと隣に歩いている菜摘先生より短くよりふわふわした明るい髪のひと。甲高い声ではしゃぎあっている小さな女の子のふたり組。背の高い男の人。最後に萌さんが歩いてきた。
「これが寄宿舎の面子だよ。自己紹介、お願いします」
 ふわふわ髪のひと「菊組、小山内杏里です。アクアリウム部です。同じクラスになるみたいで、よろしくおねがいします」ヘッドフォンのひと「藤組広畑千尋です。アクアリウム部部長です。広畑のひろは普通の広いじゃなくて、難しいほうの廣ですが、どっちで書いてもらってもいいです。あと、杏里とは同室で二棟四階の階長です」男の人「菊組の伊藤雛実です。演劇部の副部長です。よろしく」「三ツ矢青葉だよ! 演劇部で中等部の金剛組! こっちは三ツ矢紅葉! 双子!」「もー先にいわないでよ!」
 アクアリウム部はなんだかもの静かで不思議な感じ、双子は騒がしくて、男のひとは普通な感じだった。「菊組にはいることになった宗像よしのです。すぐには覚えられないかもですが、よろしくおねがいします」
「えー! おじいちゃんのお孫さんって本当!?」と、紅葉。「すぐ覚えられるよー!」と、青葉。アクアリウム部のふたりは気にした風もなく、伊藤さんは驚いているけれどそれを気にしていないという風に振舞おうとしている。「本当ですよ。宗像健三はわたしの祖父でした」「でした?」「でしたでしたか?」「先週、亡くなったんです」「そっかーおじいちゃん死んじゃったんだ……」「残念……」双子はあーあという風な表情をしている。アクアリウム部はやっぱり無表情で、伊藤さんはなんだか複雑な表情をしている。恨んでいたのかもしれない。恨んでいたけど、それを親族にあらわすのは気がひけているのかもしれない。「でも、みんな死んじゃうもんね!」「人間だし!」「そうですね」わたしはというと、生前特に関わりがなかったので感慨をいだけていなかった。生前よりも、こっちにきてからの方が、宗像兼三(の名前)と関わりが増えてきている。
「よしのおねえちゃんは人間なの?」「どうなの!」「わたしは、ただの人間ですよ」「…………」「わたしたちはそろそろ帰るね」「失礼します」「ご愁傷様です」「先生以外の人間って初めて見た!」「人間ってみんなが大人ばっかりだったもんねー!」アクアリウム部のふたりは部屋に戻ってゆく。ヘッドフォンを首にかけていた廣畑さんは頭のうえに載せなおし、ふわふわ髪の小山内さんは髪をゆらゆらさせながら廊下の暗いほうへ歩いてゆき、ここにはたしか、演劇部のメンバーが残される。
「千佳と花ちゃんはもうあったからいいかな。ふたりとも菊組で、千佳のほうは園芸部、花ちゃんはさっきいったけど演劇部だよ。ふたりとも同室だね」
 後ろのほうで手持ち無沙汰そうにたっていた萌さんはさっきまで座っていた席に戻り、あやなさんはたちあがる。テーブルの周りをとり囲まれ、話が始まる。演劇部に入ってくれるの、とか、そういう話で、はしゃぐ双子とそれを煽るあやなさん、静かだけど時々口を挟む伊藤さんがいて、わたしと萌さんは麦茶のコップに口をつけたまま固まってしまう。
「まあまあ、部には入って欲しいけど楽しめないと意味がないしね。あたしとしてはなんとしても入って欲しいけど、だめなら仕方がない。台本のほうを直すまでだよ。それじゃああたしは部屋に戻るね。あとのことは中野に訊くといい。荷物はもう部屋に運んである。あとは菊組のみんなと双子で好きにやってくれ。いろいろ訊いてみたいことはあるだろうけど、でも今日しかいないわけじゃないんだ。疲れただろうしゆっくり休んでくれ。解散」
 さすがに首席だけあってそれらしい話し方もできるんだなあと失礼なことを思っているとあやなさんは自分の麦茶のコップを持って去っていった。双子と伊藤さんも帰ってゆき、談話室に萌さんとふたり残される。
「わたしたちももどりますか……? あやなから寄宿舎の設備のことは訊きました? あの、もし、まだでしたら案内します……」
 萌さんも立ちあがる。部屋にもどるまえに寄宿舎のなかを案内をしてもらうことになる。コップを片付けるからまずは食堂からと談話室を出ようとすると玄関がひらき、花さんと千佳がもどってきた。
「あっ、よしのちゃんとめぐみんだー。ようこそ淡潮寄宿舎へ。よろしくねぇ」
「あっ、どうも……。さっきもお話ししましたが同じクラスになるよしのです。よろしくおねがいします」ぺこり。
「んもー、そんなにかしこまらなくていいよよしのちゃん。名前も覚えてるよぉ。菊組なんだよね。クラスの名前覚えられる? 数字じゃなくて花の名前だと可愛いけど覚えにくいよねぇ。あっ、よしのちゃんは……うーん。よしののとかどうかな?」
「えっ……」
「あだ名だよぉ。よしの、だからよしのの。花、ひとにあだ名つけるの好きなの」
「う、うん。いいですよ」
「えへへ、よしの。よしののの……」
 なんだか、花畑にいたときよりぽわぽわした感じだなと思う。花さんはよしの、ののの、と楽しそうにしている。それに、萌さんはめぐみん、わたしもめぐみんって呼んだら馴れ馴れしすぎるだろうか。
「ねえ花、早く戻ろうよ」
 千佳は花の袖を引っ張って連れて行く。
「ちぃ待ってよぉ……じゃあねーよしのの」
 千佳は去り際に私、階長だから勝手なことはしないでねといい花さんがそれをいさめるようにしていた。談話室はまた静かになる。
「ねえめぐみん?」
「はっ、恥ずかしいのでやめてください……」
「ごめんごめん」
 あやなさんに寄宿舎にどんな設備があるかきいていたけれど、萌さんにもう一度、連れていってもらっておしえてもらう。食堂は一棟一階のエレベータ前にあり、食事当番は一週間交代。部屋単位で選ばれ、初等部、中等部、高等部混成の班がつくられている。萌さんはようやく同室ができたから少し楽になるねってまた赤くなりながらいった。部屋の移動は寮長に申請してもとの同室と新しく同じ部屋になる人とその人の同室、新しい部屋の階長に了承を得れば好きにできて、仲のいい人同士で相部屋になるそうだ。大浴場は二棟の一階にあり、二階の渡り廊下から行く。冬はすごく寒いから風邪をひかないように気をつけないといけない。入浴時間は六時半から十時で、部屋にシャワーがついているからそっちを使ってもいいとのことだった。寄宿舎付属の図書室も二棟にあり、案内してもらった。閲覧卓がふたつに窓際のカウンター席が五つありカウンターのほうは板で区切られている。貸し出しシステムはパソコンが一台あり、図書室のものでも、部屋から学内のネットワークに接続し管理番号を手打ちで入力してもいいとのこと。常時いる司書はこっちにはいないから、相談があるときは学校の図書室にいけば相談に乗ってくれるそうだけれど、司書専門という訳ではないので放課後にしかいないとのこと。貸出は二週間で、学校のほうは七冊まで、寄宿舎のほうは三冊まで。こっちの図書室はすべて開架で、見させてもらうと小説より工学や海洋学、農学の専門書のほうが多かった。
「こんな感じだけどだいじょぶかな」
「うん。だいじょぶだよ」
 渡り廊下を歩き、一棟へ戻る。渡り廊下には外階段の入り口もくっついていて、そこから部屋に戻ることになった。風はつよいままで気持ちよかったけれど、だんだん陽が落ちてきて、すこし寒かった。
「エレベータ、使わないの」
「昔壊れちゃってずっと使えないままなんです。修理は呼べないですし、仕方ないですね。それに、わたし、エレベータが苦手でここのは使ったことがないんです。研究所にいた頃閉じこめられちゃって。それ以来……」
「へえ……」
「は、恥ずかしいですよね……? でも、エレベータだけはどうしてもだめなんです。真暗で怖くって。安全だってわかってるけどワイヤが切れて落っこちちゃったりしないか不安で……閉じこめられていたのは三十分くらいだったんですけど……」
「いや、そんなことはないと思うけど」
 萌さんは談話室にいたときよりもよくは話すようになっていた。打ち解けてきただろうかと安心する」
「あっ、あと、屋上にプールがあります。夏になったら好きにはいっていんですよ。わたしは、その……ちょっと恥ずかしいのではいれないですけど……たぶん気持ちいいんじゃないかなと思います……」
 そういって萌さんは手首を隠すように背中の後ろで手を組む。わたしがやったことじゃないし、苗字が同じで血がつながっているだけなのに少し後ろめたい気分になる。
 四階まで階段でのぼると足が少しだるくなった。ドアの右横に1-402、中野萌とボール紙のネームプレートがはいっていて、下の枠はからだった。
「あとで名前書いておいてくださいね。あっ、あと鍵ですね。一棟の寮長は菜摘先生ですので明日とか鍵をもらってください。今日は、一緒に行動しましょう……」
 そういって萌さんは鍵をひらき中へはいる。壁に固定された二段ベッドと机がふたつあり、右側には机が、左側にはベッドがある。入り口に近いほうの壁の両側にクローゼットがあり制服などはそこにしまうそうだ。窓際の机のそばに姿見があり、わたしたちを映している。机とベッドの間に低いテーブルがあり、雑貨類や萌のものだろうか、眼鏡がおいてあり、座椅子やクッションが周りに置かれている。机のあいだは本棚で仕切られている。萌さんは入り口側の机を使っているみたいで、机の脇に鞄がかけられ、棚には本がつまっていた。ときどき点検があるから部屋はきちんと片付けておくことといわれたとおり、よく掃除されていて少しだけ生活感のある下のベッドも整えられてある。
「あああと、消灯後はだめだけど、人の部屋には自由にいっていいんだ。千佳ちゃんとか、花ちゃんとかよくくるよ。そういえば、千佳ちゃんどうしただろうね。さっき、なんか変だった」
 あやなさんがいったとおり、ベッドの足下にわたしの鞄がおいてあった。
「う、うん。なんか嫌われちゃったみたいで……」
 あまりたくさんのものは持ってこなかったけど鞄を開き、気に入っている本やラップトップを机に並べていく。服の入った鞄はあとで準備することにして、寝具類を整えようと枕をだして上のベッドをのぞくと灰色の紙箱がふたつおいてあった。
「なんだろうこれ」
 そういって萌さんにみせると制服だよとこたえられた。そういえば、くる前、メールで制服のサイズを送っていた。
「サイズあってる着てみたら」
 ベッドからおりてローテーブルの上で開くと、紺色のジャンパースカートとジャケットの制服が入っていた。ほかにも、丸襟のブラウスが長袖のものと半袖のもので四着ずつ、臙脂色の棒タイがふたつ、靴下が六組あった。小さいほうの箱には飴色のローファーがあって、サイズも送った通りだった。ジャンパースカートを広げて肩のところにあわせる。その様子を萌さんは談話室のときと同じと同じ大きな瞳でみている。
「き、着ないんですか……?」
「あ、うん。恥ずかしいからちょっと後ろ向いてて」
「ああっ、うん……恥ずかしいよね。ごめんね……」
 カーディガンとシャツを脱ぎ、袋にはいった長袖のブラウスをあけて袖を通す。ボタンを留めながらテーブルを挟んで向かい側の萌さんを見て小さい背中と首だなと大して違わない体格なのに思う。白い首に縛った髪の少しほつれたものがかかっている。窓からさす夕陽に、わたしの影が彼女にかからないように伸びている。棒タイを結び、ジャンパースカートにを着る。ジャケットは少し暑いかなと思いながらもあとでサイズがあっていないなんてことになると困るから羽織ってみた。ズボンと靴下を脱いで、新しい紺色のものを履かせる。鏡の前にたって、タイや腰のところをなおしてみる。新しい制服はまだかたくてごわごわする。髪は、櫛はまだだしていないから手で整えた。丸襟と臙脂色の棒タイはあやなさんもいっていたけど高校生には少し幼くみえ、ちょっと恥ずかしい。
「いいよ」
 また黒く大きな瞳で見られる。黒髪をふたつに縛り、頬っぺたにそばかすの散った萌さんは歳よりちょっと小さく見えるけどわたしをみる瞳だけ大きくて、見透かされているような居心地悪さがあった。
「どうかな」
「う、うん。丈もぴったりだし、似合ってる……よ」
 わたしはスカートの丈が少し長いかなと膝のところをみた。紺色の無地のハイソックスがすねの半ばまでをおおって、むき出しになった膝の少し上のところにスカートの裾がある。
「どうしたの、萌」
「なんでもないっ……似合ってるなって思って見てただけ……」
 陽はもうすぐ海のむこうに落ちる。周りには島もなにもない、海にぽつんと浮かんだ淡潮島はこれで真暗になってしまうのだろう。
「じゅあ、脱ぐからちょっと後ろ向いてて。何度もごめんね」
「いいよ。そういえば夕飯は七時からだけどどうする。大浴場はお風呂はいったあと食堂にいく人がいて混んでると思うから、入りたいならシャワーにしたほうがいいと思うけど……」
 萌さんはの背中をみながら会話をする。彼女はごきげんそうにすこし肩を揺らしていて、最初はどうなることかと思ったけどこの分ならすぐ打ち解けられそうだなと安心した。
「じゃあ、あとででいいかな。今日はつかれたからあとでゆっくり入るよ」
「うん……疲れてるところ悪いけど、お風呂、遅い時間でもいいかな?」
「いいよ」
「ありがと。お風呂の道具とかは持ってきました」
「うーんシャンプーとかは持ってきてないけどだいじょぶかな」
「そういうのはあるからだいじょぶだよ。タオルはないとだめだけど」
 きてきた服に着替えなおし、夕食までの時間を荷物をあけたり、訊き忘れていた寄宿舎の規則や学校のことを訊いたり、話したりしてつぶした。クローゼットのなかは制服と持ってきた服とをあわせるとすぐにいっぱいになってしまったけれど、外にはいかないのだから買い足すこともなかなかないだろうしいいかなと思うことにした。
 机にはわたしの持ってきたもののほかにもう一台ラップトップがあり、生徒ひとりひとりに支給されるそうだった。インターネットもつなげられ、学内サーバには教員やクラスの情報が載っていたり、クラスや部活動の他にも個人用のスペースがあてがわれていてウェブページを部、個人を問わず好きに作っているらしい。新聞部やアクアリウム部、メカトロニクス部、新聞部のほか独立して個人でサイトを運営しているひとなど、いろいろなページがあって、アクアリウム部は水槽の写真や技術的な紹介、淡潮島周辺の海と魚の環境についての解説があり、去年の研究成果というものもあった。演劇部のものは次の公演の予定と過去の公演の録画、練習風景の写真などをメインコンテンツにしていた。イントラネットにはHTTPサーバのほかにも様々なサーバ群があり、授業用のシステムなどもあった。教材の配信もあり、ほとんどの授業はラップトップを持ち込んで受けるらしい。風邪をひいたときなども寄宿舎から受けられる。また、講座ごとのIRCチャンネルもあり授業の質問や要望をそこで受け付けられていて、気軽に質問ができるとのこと。また、授業中は教室ごとのネットワークが閉じられ80番などのほとんど、1024番以降のポートもプロキシを通して使うひとがいるので閉じられるそうだ。
 そういった説明を受けていたら夕食の時間になり、食堂へおりていくひとたちについていった。食堂は広さのわりにがらんとしていた。まだ人がおりてきていないのかなと思ったら、設立当初はここが埋まるくらいいたらしいけどだんだん減っていって今の数に落ち着いているそうだった。あやなさん説明からすこし不安だったけれど料理はおいしく、話しながら食べた。どれくらいの教員がいるのか訊いていなかったけれど、食堂にはぽつぽつと先生らしき人がいて、帰ったら教員名簿をみるのもいいかもしれないと思う。
 六人がけの机をわたしたちだけで使っていたところ、白衣姿の菜摘先生がやってきて一緒に食べることになった。