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2章1節その1

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110727/推敲と校正をしていなかったので修正

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 2章

 1

 時間は流れ、五月がすぎ、梅雨がやってくる。わたしは結局(嫌ではない)演劇部に入部していた。一日の授業がおわり、今日の最後の授業は菊組単独の理科の授業で菜摘先生の授業だった。顧問の菜摘先生もあわせると演劇部の半分以上になる演劇部の半分メンバーは固まって移動することもなくばらばらに教室をでてゆく。
 最近広畑さんにもらったらしいヘッドフォンをかけ、音楽を聴いている杏里さんはさっさと荷物をまとめて、愛おしそうにヘッドフォンを首から頭のうえにかけている。彼女がそんな表情をするなんて珍しいなあと思いながら眺めていると、花さんがやってきた。
「よしののの?」
「どうしたの」
「今日は、千佳につきあってからいくねぇ。先輩と双子によろしくねぇー」
 千佳は教室後方の扉の框に足を載せて、待ち遠しそうにしていた。花さんと会話をするわたしをにらみながら、彼女のほうをみるときには愛おしそうな顔をしている。菜摘先生は、暇なときは部活に参加してくれるのだけど、最近は忙しいらしくどこかへいってしまっていた。伊藤さんは先に向かっているらしく、もともとひとの少ない教室はがらんとしている。もともとは二十くらいが並べられていたけど、今は後ろにまとめておかれている机と、黒板のまえに並べられている六つの机がある教室。最近は陽がながくなって授業が終わっても太陽はまだ高いところにある。
 萌と荷物をまとめて部室の視聴覚室に向かおうとすると校舎のどこからか弦楽器の音が聞こえてくる。
「あれも何かの部活なの」
「たぶん音楽部じゃないかな……ひとはたくさんいるみたいだけど、誰なんだろうね。カルテットを組んでる人たちがいるから……」
「そっか。萌は物知りだね」
「そっ、そんなことない……」
 初日は気づかなかったけれど、萌は褒められると恥ずかしがる。
「めぐみんは物知りだなあ」
「もう……ずっといるんですから覚えますよ」
 そんなことを話しながら階段をおり、四階の渡り廊下を歩いていると、後ろから双子がやってきた。
「めぐみー! よしのー!」突進してくる紅葉を受け止め、抱っこしてやると、小走りで追いかけてくる青葉のほかに知らない女のひとがいた。背中に楽器ケースをしょっていてバイオリンでも弾いているのだろうかと思った。
「まってよ紅葉ー」
 最近気がついたけれど、紅葉と青葉は似ているようだけど紅葉のほうが元気がよくて、青葉が紅葉をひきとめるところも何度かあった。双子と一緒の女の子のほうは同じ学年なのか、似たような背丈をしている。ジャンパースカートのうえに白いサマーセーターをきて、ブラウスの裾は折らずにきちんと袖口のボタンもとめている子だった。青葉と、その女の子がわたしたちのまえで立ち止まり、女の子の後頭部で縛ったさらさらの髪が揺れた。
「青葉、こっちの子は」
 萌はやっぱり狭い学校だからか知っているみたいだけど、わたしは初めてだった。一度ならずすれ違ったことはあるはずだけれど、会話をしたことはない。だから、そう訊いたのだけど、女の子のほうはわたしを不思議そうに見上げている。
「あ、あの……宗像せんせいの……」
「そうだよ。宗像よしの。菊組で、萌や双子と演劇部なんだ。よろしくね」
 淡潮にきてから何度も繰り返しした挨拶をする。
「はじめまして……岸田恵です……えっと、中野先輩と読みは同じですけど、恩恵のほうの恵です……」
「めぐはねー音楽部なんだ。ヴィオラでね、いちばん上手なんだよー。あとねあとね、金剛組だよ」
「へー。音楽部なんだ」背中の楽器はバイオリンではなくてヴィオラみたいだった。いわれてみればすこし大きい気がするけれど、双子と同じ(たぶん百四十センチもない気がする)くらいの背丈で弾くのは大変そうだなと思う。
「学芸会とかで演奏したりするの?」
「……(こくり)」
 また、嫌われてしまったのだろうか。宗像の孫と名乗ったとき、大抵は何も思わないみたいだけれど、好意的にみてくれるひとと敵愾心をあらわにする人とがいる。彼女は、嫌われるほうみたいだ。
「めぐはね、知らない人と話すのが苦手なの。でもでも、学芸会のこと訊いたとき、うれしそうにしてたよ!」
「そっか。よろしくね、恵ちゃん」
「……(こくこく)」いわれてみれば、嫌われてはいないみたいだ。うつむきながらも上目遣いで見てきて、双子と同い年で下手をしたら三つ子のように見られそうなのに随分と性格が違うのだなあと思った。
 特殊教室棟の二階の音楽室と三階の視聴覚室へ、特殊教室棟の階段まで一緒にいった。寄宿舎では二棟の三階、六号室らしく顔をあわせるとしたら食事のときくらいかと思うと、なかなか会わないものだなあと思うけど双子と一緒にいなかったから気づかなかっただけだろう。
 視聴覚室の重たい防音扉をひらくと、なかは遮光カーテンがとじられ、真暗のなか講壇にスポットライトを浴びて仁王立ちするあやなさんがいて、手には丸めた紙束をにぎっていた。
「遅いな!」
 ピンマイクもつけているらしく、声が教室中に響く。双子と同じく、あとになって気づいたけれどあやなさんは首席で怪物なんて呼ばれているのに変なひとだった。
「うるさいですよあやなさん……」
「まあそういうな」
 スポットライトからはずれ、段から飛び降りる。暗がりに消えた姿が一瞬見えなくなった。
「遅くなったけど、ついに台本ができたんだ。傑作だぞ、今回のは」
 どこから取り出したのか、わら半紙をホチキスで綴じた手製の台本を渡される。双子がわーとかきゃーとかー叫んでいる。
「データじゃないんですか」
「データだと書き込むとき面倒でしょう」
 読めと促すようにカーテンが次々と開けられまぶしさに瞬きする。何はともあれ、入部してから半月ずっと基礎練習ばっかりだったので楽しみなことは楽しみだった。暗がりになっていてわからなかったけれど、台本は普通に机のうえにおいてあったらしい。何冊かありほかの部員の到着を待っている。
「菊組はみんなでくると思ってたんだけどねえ。今日の最後は菜摘ちゃんの授業だったんでしょ」
「そうだけど、その菜摘ちゃんは忙しいみたいだし、花さんは千佳とどこかいって遅れてくるって。伊藤さんは先にでていったけどまだみたいですね」
「そうなんだ……せっかく準備したんだからみんな一緒にきてくれればよかったのに……」
 あやなさんはすこしだけ落ち込んでいる。一人でカーテンをひいて、スポットライトをつけてっていうのはなかなかさみしい準備風景だ。
 台本に目を落とすと、「学芸会のおわり」とタイトルがあり、その下に役柄が書かれている。わたしは髙田ゆきという女子生徒の役で、萌は田村早紀という女子生徒らしい。
 なかをぱらぱらめくっていくと、演劇部が舞台みたいで、田村早紀という名前に見覚えがあったのは淡潮に転校した初日、浴場で語ってくれた怪物の話の、先代の部長のことだった。わたしの髙田ゆきという生徒は藤組なので実在するならもう卒業しているのだろう。ほかの部員は名前は変えられているけれどだいたい同じような役回りらしく、あやなさんとわかるひとも、花さんとわかるひともいた。双子と伊藤さんは出てこないみたいだ。そのころは演劇部でなかったか、話の都合上削られたのか、伊藤さんは大道具を担当しているからかだろう。
 四人の役は、先代部長の田村早紀が萌、副部長の髙田ゆきがわたし、当時菊組のあやなさんが結城あやの、蘭組の花さんが市村花という役になっている。
 なかを眺めていくと、読んでいくと演劇部と怪物のことをメインに据えているようだ。これを学芸会で演ることがあやなさんのいっていた政治だろうかと勘ぐる。ひとが死なないように、怪物制度を殺し合いじゃなくて殴り合い程度にとどめるとか、指名制にするとか、そういう話なのだろうかと読み進め、しばらくしたころ花さんがもどってきた。あやなさんに台本を受け取り読み始めようとしたとき、双子でさえ台本を読んで静かにしていたのに突然大音声が響いた。