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2章3節その1

一番最初
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3

 よしのちゃんのことをどう思っているのか未だにつかむことができず、ついに千佳にはゆきと重ねているといわれてしまった。
 隠しているつもりだった。鱗と植物におおわれた醜いからだだけしかないわたしはあやな先輩のようにわたしはひとの考えていることなんてわからない。ベッドに潜り、タオルケットを被ったなかから右手をだして目のまえに掲げる。蔓と、枝の生えた腕だ。今日はよしのちゃんがいないから好きな格好をしていられる。最近は暑く、肌着のうえにシャツを羽織っただけの格好でいた。二段ベッドのしたの段は日陰になり、一年中風の吹いている島で開けた窓からは涼しい風が吹いている。彼女がいたら、こんな格好はできないだろう。お腹のうえにのせたタオルケットも暑くなり、起き上がろうとしたら頭をぶつけた。もう二ヶ月くらいになる。初めて、談話室であったとき、ゆきかと思った。死んだゆきが、わたしを殺しにきたのかと思った。けれど、そんなことはなかった。初日は何も知らなかったけれど(菜摘先生もあやな先生も教えてくれなかったのでどこか他の施設から移ってきたと思っていた)、彼女はただの人間で、わたしたちとは違い何の能力もないから殺すことも殺されることも暴走して死んでいくこともない。
 けれど(といっても容姿だけだ)、似ているだけで同じ目でみてしまう。ゆきは食事のときによくこぼしたり袖をお皿のなかにいれてしまうことがよくあったけれど彼女はない。それなのに、癖になっているのか注意してしまう。そういうところを、千佳に見透かされたのだ。
 今度は、まえみたいな失敗はしないと気をつけて生活していた。ベッドに頭をぶつけてしまうのもそうだ。ゆきと一緒にいた頃はよくぶつけて笑われた。よしのちゃんには、まだ、笑われていない。ゆきとは違う。ゆきのときのようにはならないのだ。そう思っているのに、さっきみたいにときどき気がゆるんでしまう。思えば、初日からそうだった。いつもシャワーで済ませているのに一緒に浴場へいった。彼女が部屋の鍵を持っていなかったからというのもあるけれど、軽率だった。何も一緒にはいることはなかった。よしのちゃんは気にするかもしれないけれど、外で待っていればよかったのだ、なのに、彼女ならわたしのからだのことを気にしないでいてくれると思い、期待してしまったんだ。事実、気にしてはいないみたいだったし、綺麗だともいってくれた。だけど、嘘なんじゃないかと疑ってしまう。あのときは、初対面だったから遠慮して綺麗だといってくれたのだ、綺麗なわけなんてない、ひともからだではないのだ。頭だって、そのうちぶつけてしまうだろう。毎朝、よしのちゃんが起きるより早く起きて制服に着替えのだってもとから朝型でないから辛いし、気持ちをうちあけて寄りかかられたらどれだけいいだろうと思う。机の上においた携帯をとるのも面倒な気分になって蔓をのばす。いつでも思ったとおりに動くわけではないけれど、集中すればぎこちないけれど動かすこともできる。なんだか疲れた気分で、一度起き上がったものの、また横になってしまった。蔓の何本かがばらけて、からだの下敷きになった。ほとんど痛覚はないけれどくすぐったいような感じでまた起き上がった。ままならないことばっかりの気分で、頭がぐちゃぐちゃとしてくる。パスワードをかけたディレクトリをタップするとダイアログが開き、四桁の数字を入力する。あまりに貧弱なセキュリティだけど誰も見ることはないのだからとそのままにしていた。なかには一枚だけ宗像よしのの写真がはいっている。ふざけあって撮りあいをしたときの一枚で、他のものはもう削除してしまった。制服を着て、夕暮れの窓を背景にし、ピースサインを顔のまえでしたものだ。彼女は、まだそのときの写真を持っているだろうか。わざわざ削除することもないから他の写真と一緒にはいっているだろうけど、二度とひらかれることはないかもしれない。この写真も削除してしまおうと思うこともあった。だけど、ゆきともふざけあい、同じような写真を撮ったことを思い出すのだ。そのときも夕暮れの部屋で、同じようにして撮った。少し逆光になり、恥ずかしそうににほん指をたてた姿だった。同じような格好だけど、ゆきのほうが恥ずかしがっていたなと思いだす。その画像も、ゆきが死んだときに削除してしまった。携帯のファイルはネットワーク接続時、自動で個人用のファイルサーバと同期するからそっちのほうには残っている。だけどそれも、奥底のほうにしまい込み、四百四十八ビットの可逆暗号で守られている。鍵はどこにも記録していないから、数年以内に開くことは二度とないだろう。
 写真を閉じてホーム画面を表示する。デフォルトの真黒の画面に学校からの新着情報やアプリのアイコン、よく使用するディレクトリのショートカットなどが浮かんでいる。絵美ちゃんはやっぱりこういうところは色気がないなあと思いながら携帯を枕下にしまった。
 今日はよしのちゃんが出かけていてよかった。千佳に指摘された日、外階段で抱きついてしまった日からぎこちない感じで、わたしが全て悪いのだけれど一緒にいるのが辛い。いっそ、部屋替えを頼むのもいいかもしれないとおもうけれど、そんなのは本心ではない。本心のわからないまま、ああしてしまった。背丈も髪型も、顔立ちも少し似ていて、あのとき抱きついたのは誰だったろうと反芻する。その答えはもうわかっていて、よしのちゃんでしかない。けれど、わたしがそうしたかったのはゆきなのか、彼女なのか、わかるときはくるのだろうか。タオルケットを抱きしめベッドから出る。読みさしの本と、読みたくはないけれど任されたからには演るしかない台本をとりだす。そういえば、よしのちゃんはわたしが読んでいる本を知っているだろうか。あまりたくさんは読まないけれど、よく恋愛小説を読む。恥ずかしいからひとにはいっていない。知っているのは注文して、陸のほうへ受け取りにいってもらっている菜摘先生だけだ。淡潮にそんなものに興味があるひとなんているといえば高橋くんと佐久間さんくらいかもしれない。暑いけれどいつまでもこんな格好をしてはいられないので、シャワーを浴びて着替える。